戦争映画に観る「運命」

 内容がどういうものであれレンタルビデオ屋やCDショップで「戦争映画」というジャンルが出来上がってしまうほど、この手の作品は多い。『史上最大の作戦』『プライベート・ライアン』『ナバロンの要塞』『トラ!トラ!トラ!』、邦画でも『日本のいちばん長い日』『独立愚連隊』『太平洋の嵐』……さすがに全部は観ていないが、全部観るだけでもエライ時間が掛かるだろう。一ヶ月や1年じゃ足りないよ、きっと。


 で、つい先日『トラ!トラ!トラ!』を鑑賞。本物志向と物量作戦による戦闘シーンはお見事で*1、迫力満点。火を消そうとするエキストラの目の前で飛行機が爆発、なんてカットがやたらと出てくるが、よく撮ったものだ。この真の炎はCGでは表現できまい。
 そして真珠湾攻撃に至るまでの、日米両政府、両軍隊の動きもしっかりと描かれているが……互いが互い、すれ違いや偶然のおかげでとんでもない運命の渦中に巻き込まれていったのだ、というのが良く分かる。
 アメリカは日本の中国侵攻を牽制するために、日本に対する石油の輸出をストップしていた。このため日本は中国侵攻を止めてアメリカに歩み寄るか、あるいは中国をそのままに東南アジアに資源の確保を求めるしかなくなる。当時東南アジアを治めていたのはヨーロッパ諸国だったが、第二次大戦に伴い主力を本国に移していた。つまり日本としてはアジアに手を出しやすい、という条件が整っていた。この状況からして、戦争になった場合日本はまずアジアを攻めるだろう、とアメリカは読んでいた。まさかハワイには……言いたいところだが、既にアメリカ本国は真珠湾攻撃を予測していて、国民の戦記高揚を狙ってハワイを捨て石にした、という説もあるから一概に油断していたともいえないが、そこまで突っ込むと映画とは関係ない陰謀論にまでなってしまうのでココでは省略。いずれにせよ、アメリカ人のほとんどは度肝を抜かれたはずである。
 そして真珠湾も、対空レーダーに映った機影を自軍の爆撃機だと思った為に警戒警報が出なかった。空襲ではなく破壊工作を恐れたために間隔を狭めて飛行機が配置されていたことが被害を拡大してしまう。日本も日本で、宣戦布告の時間と真珠湾攻撃の時間にずれが生じてしまうという重大なミスを犯してしまう。連合艦隊長官・山本五十六は言う。「この攻撃はアメリカの戦意を喪失させるはずだったが、結果として高揚させてしまった……」。


 もし、その時間のずれがなかったら? もし、ハワイの米軍が十分な警戒態勢をとっていたら? いやそれ以前に、もし日本がハワイじゃなしにまずアジアを攻めていたら、歴史はどうなっていたのだろうか。少なくとも、今と同じ日本にはなっていない。日本は原爆どころか空襲も食らっていなかったかもしれないし、好機を狙ってアメリカと講和条約を結んでいた可能性もある。憲法は変わらないままで、徴兵制は残っていたかも……。しかしそうなってくると、今の自分の運命もやはり変わっていたことだろう。ほんの些細なことで世の中の全てが動いてしまうという、どうしようもない「流れ」があるような気がする。おまけに、その“些細なこと”を起こしてしまうのは我々人間自身、社会の中にいる誰かしらなのである。
 現代において他人との接触を求めない人が増えてきたのは、そういった「流れ」に関与するのが嫌で、一人我が道を作り上げることで自己を保とうと必死の抵抗をしているのではないかと思う。しかしこの世の中にいる以上、「流れ」との接点は避けられまい。たった一発の弾丸でも世の中は変わってしまうこともある。いつその「流れ」を変えてしまう存在になるか、誰も予想できないのだ。それが嫌だというなら、何もしないのが一番だ。ただし、凄く面白くない一生になると思うが。
 誰を友人とするか、進学先を、就職先をどこにするかだけでも、それだけでも自分の人生と運命の行く末は変わってしまう。これが国家レベルだったらそれこそ大変だ。一つの決定で、何千万人という人間の「運命」を変えてしまう可能性すらあるのだから。これだから、世の中というのは分からない。


 ……『トラ!トラ!トラ』の話から、我ながらよくここまで書いたね。個人的にはこの映画をオススメします。悪名高い『パール・ハーバー』よりかはずっと良いと思いますよ。

*1:ただし一部特撮あり。担当したのはL・B・アボットという特撮マンで、ハリウッドではかなりのベテラン。オスカー獲得者。