怪奇大作戦 第1話「壁ぬけ男」

 怪盗キングアラジンと名乗る男が犯行を次々と予告し、その通りに金品を盗んでいく。しかも現場にいた警察官の話では、アラジンは壁にめり込むようにして消えていった、というのだ。調査依頼を受けたSRIだったが、跡形も無く消えてしまうアラジンの手掛かりを掴むのに難航する。だが粘り強い捜査の末、ある一人の人物に辿り着くのだった。その人物とは……?

 本作が放映されたのは日曜午後7時という、当然子供も観ているであろう時間帯であった。そんな状況下で、「怪獣」で勝負することなく視聴者を引き付けなければならないのだから、製作者の苦労たるや察するに余りある。第1話はその苦労が幾多の場所で伺える。
 キングアラジンという実に分かりやすい悪役を出し、さらにほんの僅かではあるが子供も登場している。一応付箋にはなっているが、話とは関係なく手品師が次々とマジックを見せるシーンも挿入されている。SF+犯罪ドラマという構成がまだ完全に確立されておらず、全体的に硬い印象があるのだ。とはいうものの、劇中の盗みのシチュエーションに「能」を入れたり、オープニングから夜のシーンを出したりと、対象としている年齢層はかなり高い。
 そして、クライマックス……人を驚かせることに魅せられた奇術師が名声を失い、失敗したマジックがトラウマとなって、「喝采が聴こえる……」と言って箱に入ったまま水中に沈むなんて、どう考えても普通ではない。過去の名誉に囚われ、ついには世間を驚かさんとするまで心が歪む。何を盗もうが関係無いのだ。ただ、世間が自分のやったことに対し大騒ぎしてくれるのが楽しくてしょうがないのである。そんな人間が犯人なのだ。もっとも過去に失敗したのと同じく、トリックを暴かれた時が最後とも言える。いろいろとほつれがありつつも、コンセプト――「現代の怪奇は心の闇」――を貫き通した製作サイドの意地を買おうではないか。


 さて円谷プロといえば「特撮」だが、本作に「怪獣」は微塵も出てこない。現実社会を舞台にしたドラマで、いかに「特撮」を駆使するか? 本作は「日本の特撮=怪獣」だという概念に対する、「特撮」の挑戦でもあったのだ。墜落するセスナのミニチュアだけが「特撮」では断じてない。その辺についてはまた後ほど……。