白猿ハヌマーンと5人ライダー

 さあ来たぞ、とあるサイト*1でも紹介されていたが、ついに見てしまった。とにかく脱力感に襲われるというか、映画を観て元気付けられるというよりパワーを吸い取られるような感覚に襲われる。事実、見ていて非常に疲れた。

 ハヌマーンといえば仏教系の神様の一人。そして仏教国の多い東南アジア、とりわけタイでは日本の特撮・アニメが大人気である。そこでタイでは、そのハヌマーンと特撮ヒーローを共演させた映画を作ってしまったのだから恐れ入る。
 さて本題に入る前に円谷プロとの合作『ウルトラ6兄弟vs怪獣軍団』も紹介しておこう。白猿ハヌマーンウルトラマンと共演……いや、共演とは言えない。この映画は実質ハヌマーンが主演で、ウルトラマンに至っては最後にハヌマーンのピンチを救うためにやって来るだけ。そもそも元の題名は「白猿ハヌマーンと7超人」だから、彼がメインなのも不思議ではない。『ウルトラ〜』も自分も含めたファンの間では珍品として有名だが、今回紹介する「5人ライダー」はさらなる珍品だ。何せ、ウルトラマンの方はきちんと円谷プロと提携して作ってはいるが、本作は東映の許可無しで撮っている。

 そんなですから、ハヌマーンはともかく1号からXライダーに至るまでの5人は全部現地製造。しかし日本の造形技師と同じことが出来るはずも無く、物凄く不恰好なライダーが5人揃う結果に。ライダーマンなんか全然顔が隠れてない。まあバイクまでこさえた根性は認めよう。
 その5人ライダーがバンコク市内を併走運転するシーンがオープニングだが、カッコいいというよりは交通の邪魔にしかなってない。おまけに他の車に抜かれてる。これだけでもインパクトがあるが、BGMは「セタップ!仮面ライダーX」のタイ語版(もちろん勝手にカバーしたもの)。「セターップ!×3」までは一緒だが、その後は「♪ちょんーちょふぁいーちょちょいちゃいふぁいちょいちょいちゃちょいふぁい」と何だか分からなくなる。

 話はというと「仮面ライダーX」の主題歌からも分かるように、実は劇場版「5人ライダー対キングダーク」をタイ側が勝手に再編集・新撮したものなのだが、日本側のフィルムとタイのそれとの落差があまりにも激しいことこの上ない。まずは、肝心のキングダーク。本当のキングダークは巨大で涅槃の姿をとっているはずなのだが、タイ側の新撮シーンではそんな威厳が全くと言っていいほど無い。造形がなってない上に等身大で(え?!)、美女をさらってきては(実際にやったら間違いなく死ぬくらいの)大量の血を抜き取っては飲むという、限りなく威厳ゼロという逆の意味での凄さ。
 で、キングダークは怪人コウモリフランケンを使ってライダーを倒そうとするが、返り討ちにあう。これはイカン、とキングダークは新たなる怪人の製造に着手する……が、どんな怪人が出てくるのかと思いきや、動物の被り物を付けたムエタイ戦士というヘナヘナなもの。もちこんここはタイ側での新撮だが、いくらなんでもコレは無いだろう。なのに、ライダーとタメを張るほど強いのだ(というか、ライダーが弱い)。
 どうにかこうにか怪人は倒されるが、ライダー達はキングダークの攻撃で倒れてしまう。大ピンチ! というところであのハヌマーンが登場。倒れたライダーにパワーを与えて復活させた上に、巨大化したキングダークと大激闘を繰り広げるという、美味しいトコだけキャラになっていた。最後は、ハヌマーンがキングダークの喉笛に槍を突き刺してエンド。

 ……いやもう、思い出すたびにその馬鹿さが身にしみてしょうがない。ちなみに自分が観たのは短縮版で、本作のビデオCDの所有者がつらい思いをしながら2時間近くあった映画を編集したものではあったが、それでも恐ろしいほどにエナジーを奪われてしまう映画である。コレを観ると、東映生田スタジオのスタッフ達が厳しい環境におかれながらも、どれだけクオリティーの高い作品を作っていたかが良く分かる。
 日本の特撮を三流扱いしているそこのアナタ、さらに格下の映画を観る前からそんなことを言うんじゃないよ。

*1:bazil氏の「クズビデオ49日」http://www.vega.or.jp/~bazil/junkvideo/junkvideo.htmのこと。