アゴン

 放射能を浴びた恐竜が怪獣となって日本に上陸……と書けば、ほとんどの人は「ゴジラか?」と思う(はず)。今回の金字塔となる「アゴン」の設定は、まんまゴジラと同じ。影響もろ受けといってしまえばそれまでだが、1964年という製作時期を考えれば、まだまだ海外のモンスター・ムービーで使われていた設定であり、不自然ではない。しかし、放射能がらみという怪獣映画では王道を行く話のはずなのに、細部をこだわらないと別の意味で面白くなってしまうのだから世の中は分からない。作ったまでは良かったがお蔵入り、4年後にやっとオンエアという経緯をふまえて、本作を紹介しよう。

 「我々は第三の火を手に入れたことによって、輝かしき未来の繁栄を約束された。ただしそのために、もう一つの扉をノックしたことを忘れてはならない。」

 冒頭はこんな字幕付きのナレーションで始まる。次のカットでは、派手にビルを壊すアゴンのシーンが映し出され、なるほどアゴンが大暴れしてくれるのかと期待させてくれるが、その想いは見事に裏切られる。
 第1話は「アゴン出現・前編」だが、30分の本編でアゴンが出てくるまでに20分以上かかっている。その間、主人公となる新聞記者と科学者達のやりとりがあるが、特筆すべき点はその中だるみ加減さだ。先の新聞記者と科学者が、変な音がするという洞窟の前にやって来る。すると、中から丸い光が! 何だコレは、怪物の眼か! ……という緊縛する場面を1分近く引っ張って、何が出てくるかと思ったら子供の懐中電灯でしたー、という時間稼ぎとしか思えない演出振りに呆れる。ちなみにアゴンは登場まではするが破壊シーンは無く、浜辺の松原でただウロウロしてるだけ。

 で、2話と3話は飛ばして4話「風前の灯・後編」……を紹介する前に、3話の経緯について書いておく。
 アゴンが出現したことで当然自衛隊も話に絡んでくるが、3話ではさらに麻薬密輸団も登場。麻薬がたっぷりと詰まったカバンがアゴンの眠る海に放り出されてしまったため、密輸団は地元の漁師親子を脅して拾わせる。で、拾い上げたまではいいがそこへアゴンが現われた。あわてて海へ飛び込む一同、ところが子供だけが逃げそびれてしまい、おまけに麻薬カバンも漁船に残したまま。そしてアゴンは何と、子供と麻薬が乗ったままの漁船をガブリと口に咥えてしまった。アゴン出現と聴いて駆けつけた新聞記者と科学者達は漁師を救助するが、子供がアゴンに捕まったと聞かされ唖然とする。これでは攻撃が出来ない、さあどうする! という場面で第3話は終了。

 一応は盛り上がったように見えるでしょ? ところが、間延び演出のおかげでそれが全て台無しになってしまう。
 最終回の4話の冒頭では、3話の終盤5分が何の編集も無くそのまま流されたのだ。この辺は続けざまに観たので、同じシーンを二度見る羽目に。分かったよ、分かったからもういいよ! そんな気分にすらなってしまった。
 さて気になる最終回だが、冒頭の間延び5分を過ぎてから何だかんだあって、漁船ごと子供は救助される。よかったよかったと喜ぶ一同。すると……

 おや、このカバンは何だ? 粉が入ってるな……ん? これは大量の麻薬だ!

「博士、この麻薬をアゴンに飲ませたらどうなるでしょうね?」

 え、えーっ?! 麻薬で怪獣倒すのかよ!! どんな映画だよ!!

 かくしてアゴンに麻薬を飲ませる作戦が展開され、途中アクシデントがありながらも何とか成功(といっても結果オーライなのだが)、苦しむアゴンは近くにあった化学工場に突っ込んで火だるまになってしまう。やがてアゴンは海へと沈んでいく……。

 いやもう、何と言うべきか。余りにも衝撃的な結末にまたもや呆れ顔。引っ張るだけ引っ張っておいてこんなラストを迎えるのもあんまりだが、4年間お蔵入りしていたのも納得出来る。「幻の怪獣」と言われ続けて来たアゴンだが、幻になって当然だったのかもしれない。