サンダーマスク

 サンダーマスクの原作は一応手塚治虫となっている。「一応」と書いたのには訳があって、TV作品自体は手塚の原作をベースにしたわけではなくむしろその逆、このTV企画を元に漫画を描いたという、いわばコミカライズ版。漫画の方はそれなりに読める作品にはなっているが、元のTVはどうだったかというと……もはや珍作扱い。その中でも今回は19話について書こう。ちなみに脚本を書いたのは、昭和ガメラシリーズも手掛けた高橋二三。

 冒頭、プラモデルを組む男の子ととお化粧遊びをする女の子が映る。共通点はそう、シンナー。何気ない生活の中にも危険が潜んでいる、というナレーションが入ってサブタイトルがでかでかと出される。

「サンダーマスク発狂」

 ……正気か、おい。しかしこの題名に何の偽りは無い。

 シンナー遊びをしてすっかりラリった若者達の前に婦人警官が登場し、ホラ、こっちへ来なさいとパトカーに乗せる。何か教育映画みたい。そして若者が連れて行かれたのはどこかの空き地。何をするのかと思いきや、先の婦人警官はペンライトみたいなのを取り出すと、変な効果音に会わせてクルクル回す。途端に消えてなくなるパトカーと、バッタリ倒れる若者。高笑いする婦人警官……と思ったらその正体は魔王デカンダー。
「シンナーマン、出てこーい!!」
 現われたのは、物凄くサイケなデザインの怪人シンナーマン(字幕付き)。こいつの好物はシンナーに犯された脳みそで、つまりさっきの若者は餌にされるということ。その摂取の方法が凄い。頭にドリルで穴を開け、管を突っ込んで直に吸うのだ。脳みそって液体だったのか。

 さて、デカンダーはまたまた婦人警官に変身し(この格好が好きなのか?)、今度は脳外科手術の権威である学者の元を訪れる。そこで再びペンライトが登場、クルクル回して今度は学者に催眠術をかけた。あっさり服従する学者。デカンダーはこの学者を利用して、サンダーマスクこと命光一を罠にかけようという算段なのだ。ちなみにこの場面、カット割とかに何の工夫もなく、ただ横から映しているだけ。

 そして命光一をおびき出すべく、婦人警官デカンダーはヒロインの女性を利用する。ヒロインの前にさっきのペンライトで突然4本のタイヤを出現させ、ヒロインをはねさせた!交通事故のつもりなのだろうが、わざわざタイヤだけ出すのも変だ。
 ヒロインが事故にあったという通報を受け、収容されている脳外科医院へと直行する光一。そこには鎖で縛られたヒロインが。外そうとするとさっきの洗脳された医者が現われて、その鎖には高圧電流がかけられていると忠告し、助けたければ薬を飲めと迫る。結局飲まされた光一は意識を失う。
 すかさず現われる警官デカンダー。ペンライトでヒロインをさらってきた場所に戻し、さらにシンナーマンを出現させる。そしてついに「脳交換」が開始された!
 といってもそんな大げさなものではなく、ただ単に装置があって、サンダーマスクのほうに青ランプ、シンナーマンのほうに赤ランプが付いてて、それが一瞬のうちにパッと変わるだけ。分かりやすいというか、単純というか……

 かくしてシンナーマンの脳みそになってしまった命光一は、街中を狂ったまんま徘徊し始める。ゴミ箱を蹴っ飛ばし、通りすがりの女性に抱きつき、出前の兄ちゃんを殴る! おいおいホントに狂っちゃったよ。というか、主役の人もまさかこんな役をやるとは思わなかっただろうね。
 一方のデカンダーは、これでサンダーマスクの脳みそが手に入ったと大喜び。ところがとんでもない誤算が生じた。味方であるはずのシンナーマンが、デカンダーを襲い始めたのだ。これについて医者は、「そりゃあ当然です。中身はサンダーマスクなんですから」
。これにはデカンダーも「うーん、しまった!」ってそれくらい気が付けよ!

 徘徊しまくった光一は再び脳外科医院へ。そこで思わず、高圧電流のところに触れてしまった。意識を失う光一、と同時に、なぜか正気に返る医者。「おや、私は何をしていたんだ?」そこへ光一を追ってきたヒロインとその弟。「以前ここに来たような気がするんですが……」という変なやりとりの後に、医者がフト思い出す。
「そうだ、私はこの男の脳みそを交換したんだ」
「元に戻せますか?」
「ああもちろん」
 さっきと同じ装置にかけて、また赤と青のランプが付いて、それが入れ替わって、ハイ、元通りになりました。簡単だなぁ。

 そこへ現われたデカンダー(もう婦人警官ではありません)はヒロインを追い詰めるが、本当にただ追い詰めただけで、その脇で光一がベッドからガバッと起き上がると、ヒロインには眼もくれずにそちらを追いかけ始める。チャンスじゃなかったのか?そして、
「シンナーマン、今までに食べた脳みそをエネルギーにして巨大化するのだ!」
 かくして巨大化したシンナーマン。負けじと光一もサンダー2段変身で巨大化し、大激闘となる。口からシンナーガスを噴霧して逃げる人々をバタバタ倒していく、迷惑極まりないシンナーマン。長い戦いの末(ウルトラマン等と比べると戦闘シーンは長いが、そもそもサンダーマスクに制限時間は無い)、サンダーシュートでシンナーマンの頭は真っ二つ。肉片の一つまで焼き尽くされてしまうのであった。

 そして最後に一言「シンナーの誘惑に負けることは、魔王デカンダーに手を貸すことになるのだ」みたいなナレーションが入って、この回は終わる。

 ……うーん、何と言うべきか。一応「シンナーは怖い」って教訓めいてるところがまた変というか。
 コレ以来、上映会の仲間内では本作を「シンナーマスク」と呼ぶようになってしまった。まあ、狂ってるしなぁ。