「俺の歌を反戦歌というくくりだけで考えて欲しくない」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050416-00000130-kyodo-ent
 高田渡の名前を初めて知ったのは、フジテレビの深夜特番ドキュメンタリー「放送禁止歌」でのことだった。言うまでもないが、そこで取り上げられたのは「自衛隊に入ろう」であった。実に皮肉たっぷりの歌詞と分かりやすいメロディラインのおかげで、あっという間に俺の頭の中に刷り込まれてしまった覚えがある。それからCDも購入したおかげで、今でも「自衛隊に入ろう」はソラで歌える。とはいえ、まさか自分がその自衛隊に入るとは思いもしなかったが、辞めてからなおさらこの歌の皮肉さを改めて知った。
 ♪皆さん方の中に 自衛隊に入りたい人はいませんか
  一旗あげたい人はいませんか 自衛隊は人材求めてます
  自衛隊に入ろう 入ろう 入ろう
  自衛隊に入ればこの世は天国
  男の中の男はみんな 自衛隊に入って花と散る
 最近だとCMで「♪かゆみにピタッとアレルギ〜ル 小さな幸せよ〜」とか、「♪生きているのも面倒だ〜 だけど死ぬのも面倒だ〜」と、相変わらずの“どこか疲れた歌い方”を披露していたのだが、訃報がこんな早くに飛び込んでくるとは思いもしなかった。
 なおタイトルの言葉は、自衛隊イラク派遣でもめた頃に「自衛隊に入ろう」を歌い出すアーティスト(というか泉谷しげる)や路上演奏者が増えてきたため、「反戦歌」でくくろうとするマスコミに対して高田渡本人が述べたものである。
 ♪自衛隊は人材求めてます 年齢学歴は問いません
  祖国のためならどこまでも 素直な人を求めます
  自衛隊に入ろう 入ろう 入ろう
  自衛隊に入ればこの世は天国
  男の中の男はみんな 自衛隊に入って花と散る
 確かにこの歌を反戦歌とみなすのは、この歌が気に入っている自分もどこかずれたものを感じ、納得がいかない。過去にいたからこそ分かるが、自衛隊というのは「素直さ」が非常に重要で、変わりようの無い大きな体制の中で何一つ疑問を感じないか、あるいは多少感じても軽く流せる程度の受け身が出来る人間なら、定年まできっちりやっていける。じゃあ自分はどうだったかというと、俺の進む道が命令としていつの間にか作られ、そこに乗っていればいいというその体制が嫌になり、自分でその道をぶち壊してから自衛隊を去った。無論、上官からは相当なまでに怒られたが、それは覚悟の上であり、散々怒鳴られれば逆に何の悔いも無いまま辞められる。そうでもしなければ道は壊せない、と考えたから。
 そう、「自衛隊に入ろう」は反戦歌ではない。屈強で芯も図太く、体制の中で上手くやっていける人間に“なれなかった”自分のような人間が、俺は俺のやりたいことをやる、まあアンタ達はせいぜい体制の中で元気でやんなさいよ……と、皮肉を込めてやり返したような歌だ。簡単に言えば「反体制歌」か。
 体制にいるのもかったるいが、そうでないのもまた疲れる。それを全て悟ったような歌い方をしていた異端児が、ついにいなくなってしまった。実に残念だ。合掌。